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千葉地方裁判所 昭和36年(ワ)152号 判決 1961年7月07日

判  決

千葉県千葉郡八千代町下市場台花島庄之助方

原告

斎藤春吉

千葉市柏井町一七二番地

被告

斎藤正治

右当事者間の、昭和三六年(ワ)第一五二号審判無効確認請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、原告の訴を却下する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「申立人原告、相手方被告間の、千葉家庭裁判所昭和三三年(家)第五二四号遺産分割の審判申立事件について、同裁判所が昭和三五年五月十九日に為した申立を却下する旨の審判は無効であることを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、被告を相手方として、千葉家庭裁判所に遺産分割請求の調停申立を為したのであるが、不調に帰した為め、その申立は、昭和三三年(家)第五二四号遺産分割の審判申立事件として、同裁判所に係属し、昭和三五年五月一九日、申立却下の審判が為された。

二、併し乍ら、右審判は、左記理由によつて無効である。

(イ)  原告は、精神分裂症の為め、昭和三五年二月一六日から昭和三六年二月一五日迄、総武病院に入院加療して居たものであつて、その間、全然、審判手続には関与しなかつたものであるから、右審判は、原告の関与なくして、全く、原告不知の間に為されたものである。

(ロ)  又、右審判について、告知行為の為されたのは、原告が入院不在中のことであつて、原告は、その告知行為による告知を受けて居ない。

(ハ)  更に、右審判には、事実の誤認があり、従つて、之に基いて為された申立却下の審判は不当である。

(ニ)  以上の次第で、右審判は、その形式に於ても、又内容に於ても、不当であるから、無効の審判である。

三、仍て、右審判が無効があることの確認を求める。

と述べ、

尚、原告が、右審判のあつたことを知つたのは、昭和三六年三月中のことであつたが、右審判に対する即時抗告は、之を為さなかつたものである。

と釈明した。

被告は、適式の呼出を受けたに拘らず、本件口頭弁論期日に欠席し、答弁書もその他の書面も提出しない。

理由

一、被告は、原告主張の事実を争ふものと認め得るに足りる何等の意思をも表明して居ないので、原告主張の事実は、之を争はないものと認める。従つて原告主張の事実は、被告に於て、全部、之を自白したものと看做されるところである。

二  (イ) 右事実によると、本件審判は、原告の入院中に為されたものであることが明白であるが、家事審判の審理については、非訟事件手続法の総則の規定が準用されて居るのであるから、それについては、職権探知が行はれ、申立人の陳述を聴き、或は審問に申立人を関与せしめると否とは、裁判所が自由に決し得るところであるから、申立人をその審理に関与せしめなかつたからと云つて、その審理を違法ならしめるものではなく、それに基く審判も亦違法となることのないものである。従つて、右の様な事実があつたからと云つて、本件審判が無効となると云ふ様なことはあり得ないところである。

(ロ) 又、原告が、告知行為による本件審判の告知を受領して居なかつたことは、前記事実によつて、之を知り得るところであるが、その後、昭和三六年三月中に至り原告が、本件審判のあつたことを知つたことは、原告の自陳するところであつて、原告自身がそれを知つた以上、告知があつたと同様に解し得られるから、原告が、告知行為による告知を受領して居ないからと云つて、告知がなかつたと云ふことの出来ないこと勿論であり、従つて、右の様な事実があつたからと云つて、右審判を無効ならしめるものではない。

(ハ) 更に、本件審判に事実の誤認のあることは、右審判を無効ならしめるものではなく、その様な事実のあることは審判に対する不服申立の理由となるに過ぎないものであるから、その様な事実のあることは右審判に対する不服の申立を為して之を主張すべきものであつて、而も、審判に対する不服申立の方法は、即時抗告に限られて居るものであるところ、原告は、その主張の頃、右審判のあつたこと知り、且、事実の誤認のあることを知つたに拘らず、その申立の期間を徒過したのであるから、原告は、最早、右の点を理由とする不服の申立を為すことの出来ないものである。従つて、原告は、右の事実のあることを理として、右審判の不当を主張することの出来ないものである。

三、以上の次第であるから、原告主張の各事実のあることによつては、本件審判は無効となることのないものである。

四、而して、審判は、家事審判法によつて認められた裁判の一形式であるから、論理上当然に無効である場合を除き、無効となることのないものであり、而して、当然無効の場合は、審判が無いに等しいものであるから、その無効を主張して、更に、審判を求め得べく、従つて、この場合は、訴を以て、無効確認を求める利益がなく、又、その余の場合は、当然に有効であつて、論理上、当初から訴を以て無効確認を求める利益を欠くものであるから何れにしても、審判の無効であることの確認を求めることは、訴の利益を欠くものであると云はざるを得ないものであり、従つて、本件無効確認の訴は、利益を欠くことによつて、不適法な訴であると断ぜざるを得ないものである。

五、仍て、本件訴は之を却下し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。

千葉地方裁判所

裁判官 田 中 正 一

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